《　第　　　４　　　室　》

○　多様性に富んだ幾つもの彫刻作品の傑作を別にしても、この第 4 室の特徴となっているのは、アテ−ナ女神に奉献された　シリ−ズになった堂々たる＜コレ−像＞の作品群であって、迫真性と優雅さとを具えた　特段に元気の良い特性を浸透させている。

◎　 No.0679　キトンとペプロスとを着た　コレ−の立像

○　パロス島産の大理石で出来ている。高さが 2.5 cm.の台座を含めた　全像の高さは 1.21 m.である。アテネのアクロポリスの丘の上のエレクテウム神殿の西で、 1886 年に出土した。コレ−の像としては傑作で、最も美しいものの一つであって、アテ−ナ女神に奉献された立像である。外形上著しい特色があるのは　その衣服であって、略々同時代に出来た仲間のコレ−像が総べて　イオニア式の新しいフアッションを採っているのに反して、この像は、プライドを持ち、陽気に落ち着き払って　微笑を浮かべ、殆ど衣服を纏っていないような　ドリア式の折り返しの付いた簡素なペプロスを　腰の所で締めて着ていた。殆ど襞のない　多色のペプロスの下には　美しい亜麻の下着の長いキトンをもう一つ着ており、このキトンの幅広の耳が　咽喉の所に見えているし、美しく波打った襞が　ペプロスの下から覗いていて、キトンの下部の足の周りの部分には　軽い襞がある。像は屈まないで　両足を揃えてきちんと直立し、頭は真っ直ぐに前方を見ていて、左の肩が僅かに持ち上がっているのに対応するように　身体を左の方に幾らか傾けている。身体はペプロスの厚い毛の材質で包まれているけれども、造型のカ−ブや窪みに　その身体の線が明らかに感じ取れる。下半身は　前面では扁平で、背面では丸くなっており、何か大きい塊（かた）まりの様な感じのところがある。右腕は肘で　僅かに曲げ、腿にくっ付いた所で　花輪か小枝のようなものを持っていた。左の前膊を前方に突き出していたが、これは別に作られて　くっ付けられていたものである。豊かな頭髪が額の周りを波打って縁取り、　3 本のカ−ルした弁髪になって　両肩の上まで来ており、ぎざぎざの付いた幅広の縒（よ）り房状になって　背中一ぱいにも垂れ下がっていて、バンドで一緒に留められている。ブロンズで出来た花輪が　前髪の周りを取り巻いており、金属製のペンダントの飾りが　両耳に付いていた。

○　身体全体が　殆ど完全に衣服で覆われているとは言え、その動きのない点から見て、総合的な構成には　ア−ケイック期の厳しさの要素が見られており、それにしても胸騒ぎのするような　独自の生き生きした感じですっかり飾り立てたそのモデリングに　繊細な感覚が見られるのは、全く驚嘆すべきことである。美しい装飾の付いた頭部が、若々しくて　力強く豊かな形をしており、顔の表情が　陽気で落ち着いている点に、この作品の芸術的価値が　最も強く表われている。頭の線が　総べて外に向かって丸く流れ、巻き毛が身体の線に沿って　柔らかく垂れている点にも、同様に　繊細なモデリングの愛らしさが　強く感じられる。細部に到るまで　愛情を込めて配慮することで、この作者は　ペプロスを纏ったこのコレ−像に　女らしい生気と活力とを与え、顔の表情　就中両眼に表われた表情によって　元気付けていて、この素晴らしい作品は　文字通り若々しい美しさできらめき、最高の活気が強く見られている。昔の着色が、部分的に今でも　良く残っている。頭髪と唇と眼球の虹彩は　赤色で、瞳孔と眉と睫毛は　黒色であり、首のバンドは　緑色である。衣服のあちこちにも　彩色が見られ、咽喉もとに見える　外衣の縁は緑で、折り返しの下の縁は　赤の地色の上に　緑の小さい棕櫚模様があり、その上方にも　緑に渦巻き模様が付いている。側面で垂れ下がった帯には　緑の縞があり、その両端は　緑の編み紐で出来ていて、明るい色合いの　円花飾りの付いた 2 本の幅広の布切れと結ばれている。

○　この時代のアッテイカ地方の指導的立場にあった　巨匠の一人に違いないと見られる彫刻家の　後期の作品と思われるが、この作者は　収蔵品 No.0590 のランパンの乗馬者像とか、同じ No.0069 の獅子のサイマの部分とか、同じ No.0143 の猟犬の像とかを作った　彫刻家であったとされている。ヴァチカン美術館に所蔵されている　エキセキアス Exekias（訳注 567）の作った　両把手の付いたアムフオラと呼ばれる壺の上で、美しいオネトリデス Onetorides（訳注 568）に讚美を与えている姿で描かれたレダ女神 Leda（訳注 569）の像に　非常に似通っていることから見て、B.C.530 年頃に作られた　ア−ケイック期の像であると見られる。

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