図版 008 と 009　ライオンの臥像

○　コルフ島産出の　黄味がかった灰色の石灰石で作られている。台座の表面の大きさは、横が 122 cm.（ 48.75 inch）で、奥行きは 41 cm.（ 16.4 inch）である。コルフ島のメネクラテス Menekrates の墳墓の近くで、 1843 年に出土した。コルフ島の美術館に収蔵されている。

○　ライオンの胴体が　異常な許りに長く作られている。身体を思い切り伸ばして横たわり　僅かに右の方を向いていて、頭を持ち上げ　恰かも今にも跳び上がろうとするかの如く　険悪な表情をしている。獰猛（どうもう）な許りの　この獣の威容が、見事に表現されている。解剖学上の細部、例えば　関節の周りのライオンの皮膚の襞や　その肩胛骨や　前足の皮膚の下に見える腱といったものは、図版に見られるように　目立つように浮き彫りされて　描き出されてはいない。嘗てはこれらは、彩色を施すことで　アクセントを付けられていたものであろう。深く窪んではいるけれども大きく見開いている両眼の　怒りに満ち溢れ　恐怖を惹き起こさせる許りの眼差しとか、額に表われた不機嫌さや　鼻面の深く曲がり込んだ溝とかが、その力強い前足に到るまで　ライオンの身体全体に漲（みなぎ）っている緊張感を見事に表現している。殆ど閉じん許りのライオンの口の周りを　これらのものが取り囲んでいて、効果的な装飾としてのパタ－ンを創り出しているのである。
○　最強の獣であり　獰猛な力の原型であるこのライオンの像は、死者の和らぎの見張りをし、それを撹き乱そうと挑んで来る者があれば　誰であろうと　それを追い払うために、墓の管理者として　そこに据え付けられたものであった。と同時に、生きとし生けるものすべてに対して　終焉（しゅうえん）を与える力を、墓碑として具現化したものであるのかも知れない。このライオンの像を B.C. 625 年頃に作った　コリントの出身のこの彫刻家が、実物のライオンを見たことがあったろうとは　とても考えられないようではあるけれども、オリエントにあった原型をギリシャ風にすることによって　ア－ケイック期におけるギリシャ彫刻の中でも　最も印象の強いライオン像の一つであるこの臥像を創り出したのであった。