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図版 011 から 013 まで 若者の立像   NEXTnext-図版 012
   

○ 島産の大理石で出来ていて、アッテイカ地方で出土した。凡そ 6 cm.( 2.4 inch )の高さの台座を含めた 像の高さは 199 cm.( 6 ft. 6 inch )である。ニュ-ヨ-クのメトロポリタン美術館 Metropolitan に収蔵されている。(収蔵品 No. 32. 11. 1。) 1932 年に業者から購入された。
○ 左脚を前に出し きちんと正面を向いた形で、この若者が直立している。筋肉の張り詰めた両腕が 脇に沿って真っ直ぐに垂れ下がり、両手の握り拳は 両太腿に触れている。房状の頭髪が 小さい球体状に区切られ、幅の広い塊まりのようになって 肩胛骨の所まで垂れ下がって来ている。細いリボンで あるべき所に 髪がきちんと留められており、後頭部でそのリボンが 畳み込んだ形の結び目になって 結ばれていて、左右対称形にリボンの端が 後ろ髪一ぱいに下がって来ている。二重結びに結ばれた首紐を 前面に付けているが、これは多分 金であったと思われる 混じり物の無い金属で出来たものであったろうと 想像出来る。
○ この彫像は調和の採れた構成を持ち、単純ではあるが 雄大と見られるプロポ-ションの法則に基づいて 作られている。ジオメトリック期のスタイルの伝統に根ざしてデザインされ、一番大切な要素に 作者が精魂を傾け尽くしたことが、その形態に示されている。つまり、胸郭の下の境界線が作り出している角度と 鼠蹊部の中心の角度とが符合しており、胸の筋肉の対になった曲線と 上に向かって緩るやかに弯曲している鎖骨の線とが 符合しているのである。背面では、背骨の柱が中心線を示し 腰の輪郭が外形を示していて、肩胛骨と腰の輪郭とを曲線にすることによって 満足のゆくパタ-ンが出来上がっている。人間の形態の本質を描き出すに当たって 様式化を大胆に使用するという試みが、この若者の顔についても亦 採り入れられている。顔は長めで細く、頬は比較的広くて扁平で、弓形に大きく弯曲した睫毛(まつげ)の下からは 広く見開いた眼が 前方を見詰めており、耳は 渦巻きのような形をしている。
○ 現在まで残存している アッテイカ地方で作られた大理石の若者の彫像の中では、この立像は 一番初期のものの一つで、B.C.7 世紀末の最後の数年間の内に 作られたものである。アテネ国立美術館所蔵のデイピュロンの二重門 Dipylon(訳注 1)の若者像は 今では 頭部と右手だけしか残存していないが、その像を作ったアテネの彫刻家が、後期になってこの立像を作ったと考えている学者もある。
○ イミトス山 Hymettus(訳注 2)の南にあるヴァリ Vari(訳注 3)の墓地の道路の辺りで この立像が出土したとされている。発見された当初には 湯の華(珪華)の硬い層が彫像の表面に 未だくつ付いていたが、遠からずして取り除かれた。色々な場所 例えば頭髪やリボン、首紐や鼻孔にも、赤の彩色の痕跡が見受けられた。

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