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図版 020 から 023 まで 柘榴(ざくろ)の実を手に持った婦人の立像   NEXTnext-図版 021
   

図版 020 から 023 まで 柘榴(ざくろ)の実を手に持った婦人の立像

○ アッテイカ地方のケラテア Keratea(訳注 1)の付近で出土した。アッテイカ地方産の 灰がかった青色の木目の着いた白い大理石で出来ていて、 10 cm.( 4 inch )から 10.5 cm.( 4.25 inch )の高さの台座石を含めた像の高さは、 1.93 m.( 6 ft. 5.15 inch )である。ベルリンの国立美術館の古代考古品部に収蔵されている。 1924 年に収買されたものである。収蔵品 No.1800。
○ 信頼できる記述に依ると、この彫像が出土した時には 鉛で包まれていたとされている。ミュンヘンにある テネアで出土した若者像(図版 36 から 38 まで)と同様、古代にこのように入念に保存されたものであって、それは 恐らく B.C. 5 世紀のペルシャ軍の侵攻の前のことであったろうと見られている。
○ この婦人像は品位が高く 堂々としていて、両脚を心持ち離し 爪先を前方に向けて直立しており、視線は真っ直ぐ前方に向かっている。柘榴の実を右手でしっかり握って 膝の上の所で支えており、左手を拡げて胸の前を横切る位置に持って来ていて、袖のない外套の下に左手の拇指(おやゆび)を突っ込んでいる。規則正しい小さなカ-ル状になった頭髪が 額の周りを取り囲んでいる。後頭部では真ん中で分けられ 両耳の後ろで 3 重のリボンで結ばれており、その弁髪が垂れ下がって 肩胛骨の所まで達している。袖の付いた下着のキトンを着ていて、平行になった直線状の襞が ベルトから両足の所まで垂れ下がって来ている。両側の襞の間に挟まった真ん中には 扁平なスペ-スがあり、着色された曲がりくねり模様の飾りが付いていて、側面に四角形の飾りの付いた曲がりくねり模様が 更に 首の周りを取り巻いて彫刻されている。袖なしの外套が両肩の辺りを覆っていて、平行になった 6 本の幅広の襞が垂れ下がり、背中では腰の所にまで達し 前面では 両肩から両腿の所まで来ている。サンダルを両足に履き、ギリシャ式のポロス polos(訳注 2)と呼ばれる円形の冠りを頭にかむっていて、曲がりくねった模様の彫刻の飾りが その冠りの下の縁の周りに、花と蕾の模様の飾りが てっぺんの周りに付けられている。蕾の形をしたペンダントが付いた首飾りと同じように、蕾を象(かたど)った耳飾りを付け、渦巻き型の腕輪を左腕にしている。
○ その形態は簡素で 造型もしっかりしており、この彫像に力強い印象を醸(かも)し出すのに役立っている。縁取りの鋭い両瞳を通して 眩(まばゆ)い許りに見詰めている両眼や 扁平で 比較的大きいめの頬や 恰かも鑿(のみ)で彫られたかの如く見える両唇が付いた 形のしっかりした口が その顔に付いていて、迫真の印象を与えるのに役立っている。この彫像は B.C.6 世紀の初期に作られたものである。像の特徴から見ても 柘榴の実とポロスの冠りというその持ち物から見ても、この婦人像は女神の像であり、それも多分ペルセポネ女神 Persephone(訳注 2)か 又はアフロデイテ女神の何れかであるとするのか、それとも一人の人間の像であったとするのかを、決定することは出来ないことである。
○ 旧(もと)あった彩色の痕跡が、比較的広範囲に残っている。倹約して使用されている青色の他に 赤と黄色が主に見られる色である。下着のキトン、柘榴の実、袖無し外套の縁と飾り房、首飾り、頭髪のリボン、サンダル、王冠の曲がりくねった模様と花模様は 赤の彩色であり、袖無し外套、キトンの飾りの曲がりくねった模様沿いの線条、頭髪、耳飾り、台石のサンダル底の下の部分は 黄色の彩色であった。キトンの中央にある曲がりくねり模様は 赤と黄と青の彩色であった。

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