図版 028 と 029 若者の頭部像 | next-図版 029 |
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○ ボエオテイア地方産出の 白っぽい石灰石で出来ている。ボエオテイア地方にあったプトアの Ptoan アポロ神に奉献された神域の中で、 1885 年に出土した。この像の高さは 33 cm.( 13.15 inch )である。アテネの国立美術館に収蔵されている。収蔵品 No.15。
○ 感動的なこの頭部像は 等身大より寸法が可成り大きい。直立した男の若者を描いた作品(図版 11 から 13 まで)が 初期ギリシャには幾つもあり、この彫像もそれらの作品グル-プの中の一つであるが、この頭部だけしか 今では現存していない。長いその頭髪が後頭部では ビ-ズ玉状の編み毛になって垂れ下がっている。幅広のリボンで留められた髪は、中央の分け目の左右に 均斉の採れた形で梳(くしけず)られ、そのリボンの下から 短くてぎざぎざになった縒(よ)り房状になって垂れ下がっている。顔の形が殆ど三角形に近いことと、表情をデザインするに当たって 幾つもの横の線に力点が置かれていること、つまり 口が殆ど一直線で、そこに一緒に鋭い彫り込みで 薄い両唇の線が印され、更には ア-モンド形の長い両眼を取り巻いて 両瞼が几帳面に刻み込まれていて、これが この頭部像の際立った特徴になっている。アッテイカ地方の初期の作品や イオニア地方の島々の作品と比較すると、この頭部像には 深みが乏しくて、輪郭にきつさが見られる。一段とより生硬に見えるし、辛辣な技法が使われていて 木彫りを思い起こさせる。この顕著な生硬さと或る種のマンネリズムとが、ボエオテイア地方の初期の作品の特色である。この地域では 他の地域で創り出された新機軸の受容性が高いことで スタイルの上での伝統主義が和らげられ、その結果 典型的な田舎の特色がより生き生きとしており、上品な要素と混じり合って 何か興味深い混合物が出来上がっているのが見られるのである。
○ 違った幾つかのスタイルが混じり合っていて、この作品の作られた年代を決めるのが大変に難かしく、その結果 意見が色々と分かれて来たのであるが、恐らくこの像は、 B.C.550年の直前の数年間に作られたものであろうと思われる。
○ 右の方の石の表面が 幾分腐蝕しており、左の頬と額とには 浅暗い染(し)みが幾らか付いている。