7) 南面のポルテイコ(柱廊玄関)とカリアテイ−ド(女人像柱)
○ カリアテイ−ドと呼ばれるコレ−のポルテイコが 神殿の南側に付いていて、北側のポルテイコとの釣り合いが保たれている。この南面のポルテイコの大きさは 北側のものよりずっと小さい。高さが 1.77 m.の胸壁がクレピドマの上に載っており 更にその上に 6 体のコレ−像が立ち、エンタブレイチュアと屋根とが この像の上に順々に載っている。前方から見ると 完全に閉鎖されたポルテイコであって 純粋な装飾であるようにも見えるが、胸壁の東側の短い方の側面に 小さい入口扉があり、この目には触れない通路を通って 11 の段を内に降りてゆくと 神殿のプロストミエイオンの室に通じている。このポルテイコの西側の手すりが神殿の壁面と繋がっている部分には 土台がなくて、現在では鉄製の細長い棒で支えられた 橋の形になった大理石の大きい塊まりがあるのが目を引いている。この区画は神殿の南西側の下方の 非常に低い所にあり、ケクロピオン Cecropion と呼ばれる 古代のアテネの王ケクロップスの墓と社であって、南面のポルテイコは この侵すべからざる聖なる場所が 踏み付けられることのないよう守る役目をも果たしていたのである。
○ 通常は 6 本の円柱が支えている屋根を ギリシャ建築構造の古い仕来たり通りに支えているのは、この神殿の南面ポルテイコでは円柱ではなくて 6 体のコレ−たちの人物像であった。地面に直接立てることにすると 余りにも大きい像になってしまうので、胸壁を作ってその上に立てられており、その足の直ぐ下の台座には 卵鏃飾りの刳り形装飾が付けられていた。円柱に柱頭があるように、この女人像は 卵鏃飾りのイオニア式のサイメイションとアストラゴロス(玉縁)との飾りの付いた籠を 頭上に載せていて、この籠が天井の梁を支えている。籠の下には 重みを和らげるクッションがあり、籠の上にはアバクス(頂柱板)がある。天井の梁は エピステユレ(台輪)と 少し突き出ていて 装飾のふんだんに付いたコルニス(軒蛇腹)とから出来ていて、その間には フリ−ズが挟まっていない。天井そのものも、大理石で出来た格子で 同じように飾り立てられていた。
○ 6 体のコレ−像は、細部で色々違った点はあるが、一つ一つがばらばらなものではなくて 一体となって構成されている。前にある 4 体が ポルテイコの前面を美しく飾り、両端の 2 体の像の後ろに 夫々もう 1 体づつ像が立っていて、凵字形の隊列を作って配置されている。コレ−像はしなやかで明るく 心と若さに充ち溢れており、東側の 3 体の像は右脚を、残る 3 体は左脚を前に出して 膝で優雅に曲げているが、それは何れも 中央に近い方の脚である。腰の所で手繰り上げられた長いペプロスが 両足の所まで垂れ下がって来ており、ふんだんに出来た襞の中に 像が抱き込まれてしまっている。直立した方の脚にも 円柱にある溝と同じように安定した印象を与えるペプロスの襞が 垂直に垂れ落ちていて、この像が持っている 儀式張っていて静的な厳格さを打ち毀わしてしまっているように見える。この神殿の芸術表現の頂点が このポルテイコの中に見出されるのであり、このコレ−たちの像は その立っている区画全体を自らの美と気高い外観とで支配してしまっているのである。
○ 頭上に重量物を載せて支えているにも拘わらず、その姿勢は誇りに溢れていて 高貴である。ペプロスの作ったカ−ブの上方では 上体が息を吸い込むかの如く直立しており、頭部は両乳房の丁度中央にあって、傾いていない。両腕が身体の枠を形作り、ぶ厚い弁髪になって後方に垂れ下がっている髪は 頚の部分の弱さを補強し、ずっとより大きい静の耐久力を首に授けている。上部の重量を完全に支えて 不安定な感じがしないようにするため 女人像に十分な力を与えることが必要であって、実にうまく作られている。体が気軽にやや後方に 反り身になっていて、幾分前方に傾いている膝の 反作用をしている。恰かもパルテノン神殿のドリア式の円柱に見られるような緊迫が、この女人像にも見られる。同時に ペプロスの襞の出来が素晴らしく、時には集まって塊まりになったり、時には腿や胸にくっ付いた部分では絹のように見られたりしている。このカリアテイ−ドの像を眺めていると、供え物を一ぱいに入れた籠を頭上に載せて ケクロップスの墓の上での聖なる任務に 一意専心して献身しているという感じを受けるのであって、これは又 美の極致の永遠に恒わることのないシンボルであり、毀わすことの出来ない 人間の価値の主張なのである。
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