○ この神殿の建物全体を支配しているプロポ−ションの係数は 4 : 9 の形であって、当時の人々のバランスに対する特徴的な感覚が この係数に示されていたことが知られるのである。神殿全体の面積 30.88 x 69.50 m.の係数も 4 : 9 であり、東西両端面と南北両側面の円柱の数 8 x 17 も 略々 4 : 9 である。立っている円柱の直径と 円柱間の間隔幅の比率 1 : 2.25 も、東西両端面の高さと幅の長さの比率も どちらも 4 : 9 の係数になっていた。
3) クレピドマの弯曲
○ この神殿の内部の床は 幾何学的に水平ではなくて、有名な<凸状>として知られている通り 微かに中膨らみになっている。土台床は 柱廊の基部の所で 東西面では 7 cm.南北面では 11 cm.だけ中央が高くなっていて、そこに出来ている弯曲は 直径が 3.5マイルの円の弧になっている。この弯曲はクレピドマの一番下の段に始まって、上に積み上げられたクレピドマの 2 つの段に 次々に伝えられて繰り返され、ステレオベイトの上に立っている円柱がこの弯曲を受入れ、釣り合いを取って これを均等にア−キトレイブ(台輪)にまで伝えている。
○ 中央の所に立って両側を見透すと、この弯曲が一段とはっきり見られる。直線の単調さを避け、建造物に生気を与えようとして 故意に作られた弯曲であると考えた方が良いようである。イクテイノスとカリクラテスの 2 人の建築家は、この微妙な弯曲を使用することで 直線の成果を得ることに成功したのであるが、それは得ようと求めて努力し そして得られることが予期されていた成果なのであった。彼らは真実の回復という 肯定的な錯覚を手に入れることで、真実の変造という 否定的な錯覚を避けたのであって、それは美学的に<冷静な>水平線の使用を創造するものであった。
4) 神殿のエンタブレイチュア
○ 神殿の上部では 上下に 3 つの部分に分かれて 出来上がっているエンタブレイチュア(長押)が、水平に走っている。この神殿の構造は 一番下からより高い上の方に向かって、クレピドマ、神殿の翼部とか 側面のコロネ−ドとかになっているプテロン pteron (訳注 405)の部分 及びエンタブレイチュアの 3 つの区画に分かれている。このエンタブレイチュアは同じように下から順に <ア−キトレイブ>と メト−ペ(小間壁)とトリグリュフ(三条竪筋溝)との 2 つから成る<デイアゾマ diazoma(訳注 406)> 及び<コルニス(蛇腹)>の 3 つで構成され、両破風と並んで この建造物全体の最頂点に位するものであった。
○ ア−キトレイブは円柱の直ぐ上に載って 円柱との間の空間を埋めると共に、エンタブレイチュアの最下部を構成して その全体の土台の役目をしている。神殿の東面のア−キトレイブには アレキサンダ−大王 Alexannder the Great(訳注 407)がグラウニコス川 Graunicus(訳注 408)の戦勝の後で 女神に奉献した戦利品の 300 にも及ぶペルシャ軍の具足、甲胄のうち、 26 の盾を吊り下げた穴が 今でも残っているし、 A D 61 年にネロ帝 Nero(訳注 409)への讃詞を彫り込んだ ブロンズの大きい文字板を支えたものであろうとされる小さい孔も、同じ東面のア−キトレイブに付いている。
○ ア−キトレイブの上部を構成しているのは メト−ペとトリグリュフとが互い違いになって出来たデイアゾマであって、四隅に当たる位置は トリグリュフが占めているのが通例である。トリグリュフは 単に 2 つのメト−ペの間の仕切りというだけのものではなくて、1 つ置きに円柱の丁度真上の所にあり、円柱の縦の垂直の線を 更に上方に向かって伸ばすという役割を果たしており、建物の構成にとって 重要な部分となっている。4 面のメト−ペはすべて 浮き彫りの装飾で飾られていた。
○ エンタブレイチュアの最上部を構成しているのはコルニスで、外に突き出している。このコルニスの上には 間隔を置いて 18 ケのプロモクトス promochthos(訳注 410)という名の露玉を持った厚板がある。
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