5) 円柱及びその傾斜とエンタシス entasis(訳注 411)
○ 円柱と壁面とが ステレオベイト(基壇)とエンタブレイチュア(長押)との間に垂直に立っていて、長押と屋根との重量を支えている。円柱は 3 層になった基壇の最上部のステユロベイト(基台床)の上に いきなり立っていて、台座がない。このプテロンの円柱はどれもこれも 太鼓形石材を 10 -12 ケ積み上げて作られていて、その高さは 10.433 m.で 基部の所での直径は 1.905 m. 頂点部の直径は 1.481 m.であり、四隅にある円柱 4 本はやや太くて 直径が 1.948 m.であった。柱身には溝が 20 本付いていて 日光に当たると幽かに震動しているように見え、恰かも光線が何か生命力を与えられて 建物全体を跳ね回っているかの如く見えた。
○ この神殿の 46 本のドリア式円柱は どれも完全に垂直に直立しているのではなくて、 7 cm.を限度として 僅かに内側に向けて傾いている。四隅の幾分太めの円柱も 斜めに対角状に傾いて 屋根の先端の重量を支えており、この四隅の円柱だけは 隣りにある円柱との間隔幅も 幾分狭くなっている。円柱の傾斜は極くほんの僅かなものであり 仮に南北両側面の傾斜した円柱の交点を求めるとすれば、それは 1782 m.の高さにも達している。南北両側面の内部にあるケラの壁面も亦 幾らか内に傾斜している。これに対して神殿の内部の間仕切り壁とか プロナオス(前房)とオピストドモス(後房)とに立っている 夫々 6 本の円柱とかは、完全に垂直に立っている。パルテノン神殿を外から眺めても、この様な傾斜があることは 余り感じ取れない。これはコルニス(軒蛇腹)と屋根板とが 外に向かって張り出しているためである。この神殿は 水平であれ 垂直であれ 意図的に直線を棄てており、厳密な数学計算に基づく組み立てを打ち破ることで 特別な活気が得られているのである。
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