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アクロポリス美術館
 
 

◎  No.0675 キオス島産の大理石で出来たコレ−の像

○ 白色から乳色がかった灰色の キオス島産と思われる大理石で出来ていて、頭部とトルソ像とを併せた 高さは 55.5 cm.である。頭部は 1886 年に パルテノン神殿の東の方で、トルソ像は 1888 年に 同じ神殿の南の方で 出土した。B.C.6 世紀の末に近い 510 年頃に作られた このコレ−像は、ア−ケイック期の イオニア地方の彫刻芸術が作り出した 最も美しい作品の一つであって、その材料石や 像の特徴を良く示している技巧から判断して、恐らく キオス島の無名の彫刻家が作って奉献した 繊細で柔らか味のある イオニア地方の作品であろう。

○ ペイシストラトスとその息子たちの治世の年代は、アテネが繁栄した年代であった。海外 特に東方諸国から 数多くの彫刻家や壺絵師らが、アテネに魅かれてやって来た。これらの人々の活動は、アッテイカ地方の芸術の発展に 影響を与えずには措(お)かなかった。イオニア地方や 東部ギリシャの工匠たちの手で B.C.6 世紀に作られた彫刻が、アテネのアクロポリスの丘から幾つか出土しており、その中には アテネの町の中で制作されたものもあれば、イオニア地方で制作されて アッテイカ地方に持ち込まれて来たものもあった。

○ ほっそりしていて繊細なこの像は、袖の付いた下着のキトンを 腰で締めて着ており、左手でキトンを浮かせて握っている。淡い色の上衣が 右肩に懸かり、右上膊でキトンと一緒に留められ、腕の下で集めて 縫い付けられている。腕の上膊部の上の皺からスタ−トした この上衣の襞は、恰かも薄い材質のキトンと同じように 美しい波の線を作っている。外衣の襞の扱い方は 明らかに横の動きを示していて、キトンの襞が胸の左方に向かって やや斜めになって走っているのが、特徴的である。前方に伸ばした手には 鉢か 献納品の贈り物を持っていた。首は長くて 丸々としており、頭部は はっきりした杏仁形をしていて、顔は珍しく のっぺりとしており、その顔には 杏仁形の長い顎、幅広の口があり、広角に弯曲した両眉の下には 眼尻の吊り上がった 杏仁形の両眼が付いている。額の結髪が装飾的で、額の上では 曲りくねった美しい波状の形を描いており、その上方では、丈高の帯状頭飾りの底の縁の下から ビ−ズ玉の太い紐が きちんと並んで現われ出たように表現されている。豊かで厚手の弁髪のうち 3 本が前にあり、両肩越しに胸にまで 堂々と垂れ落ちている。

○ この像は多分 室内に立っていたものと思われ、そのために キトン、上衣、ベルト、耳飾りなどの細かい部分に 艶(あで)やかな色彩が 今でも良く残っていて、この像が作られた許りの頃の印象が どうであったのかを彷彿させている。鳥を追い払う大釘のメニスコス meniskos が付いていないことも、この像が室内にあったことを示していると説明出来る。キトンの色は もとは濃い青であったが、酸化して 今は殆ど完全に 緑色になってしまった。キトンの咽喉周りの縁取りは 単色であるが、曲がりくねった裾は 赤の上下を青(今では緑)の色が囲んでおり、外衣では 青の美しい渦巻き模様と 赤の三角形の模様が鏤(ちりば)められ、曲がりくねったり 交叉したりするパタ−ンの入った 紫の縁取りも付いていて、同じように上下の両端を青(今では緑)が囲んでいる。帯状頭飾りの上部には 金属の装飾物を取り付けるための孔が 17 ケ開いており、前面は着色されていて 青(今は緑)の地色の上に 小さい棕櫚と蓮華(れんげ)模様の 赤の飾り絵が描かれていた。両耳には 青(今は緑)の地色の上に赤の渦巻き模様の付いた 丸くて大きい円盤形の耳飾りを着けている。緑と赤とで着色された帯環が、首の周りを ぐるっと取り巻いている。背面は、主要な輪郭が彫られているだけで、帯状頭飾りの上に可成り突き出している 頭部のてっぺんと同様に 滑らかであり、背面に 塊まりになって垂れ下がった 頭髪や衣服の襞の細かい部分は、絵で描かれていたものと思われている。襞の付いた着衣のこの明るい色合いは、豊かに着けた装身具と飾り物の下に見られる身体の動きと相俟って、新鮮さと女らしい仕草とに充ち溢れた この作品を創り出しているのである。

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