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アクロポリス美術館
 
 

◎  No.0697 殊の外美しい 馬の前半身像

○ 島で産出した大理石で出来ていて、高さが 1.07 m.の像である。B.C.490 - 480 年の 10 年の間に作られた <シビア・スタイル期>の作品で、この美術館の馬の彫刻の中では クラシカル期にかかろうとする頃の 最も新しいものである。エレクテウム神殿の東で  1887 年に出土した。芸術的に格段の価値を持つこの駿馬の像は、アテ−ナ女神に奉献されたものであった。後半身は失われ 前半身だけが現存していて、騎乗者が乗らずに 馬だけが立っており、競走用の馬だけが走ったレ−スで勝利を収めた 名誉のシンボルであったことを それ自体が示している。

○ 他に凌駕し得るものがない許りの巧みな技巧と 作者の独特な感じ易さとを駆使して、この馬の像の輪郭や 表面や 解剖的な細部が、描写されている。真っ直ぐに立てた 太くて逞しい頸が 強く目立ち、丸くて豊かな胸を 誇らし気に張っている。比較的小さい頭を 僅かに右に回し、美しく梳(くしけず)られた鬣(たてがみ)は 兜の前立てのようなカ−ブを作って、逆立っている。耳を上に立て、鼻孔を膨らませて 口を半ば開き、踏み出した右前脚は 何時でもダッシュ出来るよう 蹄の先で地面を引掻いていて、迫真性や活動的な生気と同時に、気持ちを強く引き締めた神経質ないらいらと 精神がそわそわした落ち着きのない不安感とが、その姿に示されている。

○ 馬体の微妙な肉付けに気を配りつつ、徒らな煩瑣を避け、アッテイカ地方の駿馬の気品を良く表わしている。この元気の良い馬の描写は、あのパンアテナイア祭の行列の 素晴らしい騎馬行進の先触れとなるものである。

◎  No.0689 <ブロンド・ボ−イ>の名で知られる 金髪の若者の頭部像

○ ペルシャ戦争の年代の B.C. 485 - 480 年に作られた 若者の特別に素晴らしい頭部像である。ペンテリコス山産の大理石で出来ていて、像の高さは 23.5 cm.である。この像が出土した時に その頭髪が濃い黄色をしていて、その色彩の痕跡が 未だ残って見えたことから、<ブロンド・ボ−イ>の頭部像として 知られるようになった。今日でも 目や唇に 嘗ての彩色の痕跡が、幾らか見分けられる。ペロポネソス半島の アルゴスの彫刻家の作品と考える人が多いが、寧しろ恐らく アッテイカ地方の作品である可能性が極めて高く、多分フイデイアスの師匠であった 彫刻師が制作したものであろうと見られる。

○ この頭部像は、この美術館の中で近くに置かれた 収蔵品 No.0698 の<クリテイオス・ボ−イ>の像と同じようなポ−ズをしていた 全身像の一部であった。同じ部屋にある 収蔵品 No.6478 の胴体像の断片が、この頭部像と同一の全身像の 部分であると言う人もある。頭部は、殆ど損傷を受けていない。顔の右側が収縮していることから、右肩の方に向かって 頭が少し回っていたことが判る。髪の房は カ−ル状になって、額と顳 (こめかみ)の両方に被って 垂れており、後頭部で始まって 襟首の所で交差して、花輪のように 頭の周りを取り巻いている 2 本の組み編み髪を 覆い隠している。両眼の 幾分夢見るような表情と 顔面の 生真面目な外観とは、美術館の収蔵品 No.0686 のエウテユデイコスのコレ−像の 恐らくは弟であったのかも知れない このブロンド・ボ−イに、憂欝で ふさぎ込んでいる雰囲気を与えている。この頭部像が 目立って美しいのは、簡素でやや重厚な容貌が 真剣な表情と結び付いて、このように 幾らか憂欝なふさぎ込みになっている点にある。ロマンテイックな注意心とか 青春期の憂欝な物思いとかが、生真面目さの限界にまで達していて、生と未来とに苦悩している若者の特徴を 良く示している。

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