図版 003 アポロ神の像 | next-図版 004 |
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○ ブロンズで出来ている像で 無垢の鋳物である。像の高さは 20 cm.( 8 inch.)である。ボエオテイア地方のテ-ベ Thebes(訳注 01)で 1894 年に出土したもので、ボストンのフアイン・ア-ト美術館 Fine Arts に収蔵されている。(収蔵品 No.03. 977)テイズキ-ヴィッチ Tyszkiewicz のコレクションの一部であった。
○ 今日まで残存している初期ギリシャのブロンズ製の像の中では、この小像は 最も印象深く 最もオリジナルな作品の一つである。直立の姿勢を採っており、身体の各部一つ一つの区分けがはっきりとマ-クされている。棍棒型の長い太腿が三角形の胸郭を支えており、首も頭もどちらも非常に長くて、ずんぐりと長くなった弁髪の上に 頭が載っかっているかの如く見える。背面では背骨の線が重点的に強調されていて、前面では 対応する胸骨の縦の線が 骨盤の所まで真っ直ぐに伸び下がって来ている。ベルトが腰の周りに締められており、幅の広いネックレスが飾りとして 首に懸けられている。彫り込みのあるペンダントが付いたこのネックレスは、胸まで垂れ下がって来ている。
○ 三角形をした面長の顔の中では 大きくて丸い眼が特に目立っている。今でこそただの空洞に過ぎないけれども、何か光り輝く高価な物質が 嘗てはそこに象嵌されていたに違いない。別鋳された扁平な兜が この像の頭の上に冠せられていた。左の手には孔が開いていて、アポロ神の持ち物の弓が この孔に通されていた。ボエオテイア地方の字体で 両腿に二行連句の彫り込みがされていて、その最後の長短短格の韻は ホメロスの詩を思い起こさせるものである。
<マンテイクロス Mantiklos は タイス tithe(訳注 02- 十分の一税)の支払い として、銀の弓もて遠くへ矢を投げる神に この身を奉献した。おお フイ-バス神 Phoebus(訳注 03)よ。おんみは恵み深くも 彼にその望む報償を授け給うや。
○ この小像はアポロ神の像で、マンテイクロスがこの神に奉納したものである。アッテイカ地方の北西にあり 周りを山に取り囲まれた平原のボエオテイア地方で出土したものに違いない。この地方では伝統が かねてから良く保持されて来ていた。B.C.7 世紀前半にこの像を制作したこの作者は この伝統的なスタイルを本当に良く踏襲していて、自然な形態にアプロ-チするに当たっても ジオメトリック期の厳格なやり方を 著しく強調し過ぎるといったことさえやってのけている。このように像全体を大きく支配しているのは 対照ということであって、縦の線と横の線との対照、身体の各器官の対照、手足の夫々の他の部分との対照といった面に、そのことが良く見られている。