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図版 027 コレ-の上半身像

○ ナクソス島産の大理石で出来ていて、この像の高さは 53.5 cm.( 21.4 inch )である。アテネのアクロポリス美術館に収蔵されている。収蔵品 No. 677。

○ 2 体の少女の彫像が断片になって、エレクテウム神殿に近い所謂<ペルシャの石積み Persian rubble(訳注 1)>の中から  1886 年と 1887 年に出土した。この2 つの作品は共に 東部ギリシャ出身の彫刻家の作ったもので、 B.C. 6 世紀の前半には既に アテネのアクロポリスの丘の上で 献納の供え物として奉献されたものとされている。この 2 つの彫像は、その保存という点では お互いに最も適切に 補足し合っている。この図版に示された 一方の彫像の上半身像は、直立の簡素なポ-ズを採った 立像の一部と見ることが出来る。薄い材質で出来ていて 袖の付いた長いイオニア式の下着のキトンを着ており、そのキトンが身体の下部を包み込んで 覆っている辺りは、平行に走る垂直の 細い襞になって、一本の円柱のような外観を呈している。更に丈の短い外衣を着ていて、右肩と右腕の上部を覆って ぴたっとくっ付いているが、左肩と左腕には懸かっていないままである。右腕を幾分だらしなく下に垂れており、乳房の前では左手で 献納物の林檎を持っている。

○ 面長の頭部が 丸々として 力強い首の上に載っかって、真っ直ぐに前方を向いている。キトンと外套の縁の線が 緩やかなカ-ブを描いて、首の付け根を縁取っている。横に真一文字になった美しい口には 柔らかい両唇が付いており、縦長の杏仁形をした顔に ア-モンド形をした小振りの両眼が ぺったり付いている。生気のない長目の上瞼は両方とも 故意に付けられた皮膚の皺と一緒になって、幾らか疲れた表情を 両眼に与えている。真ん中で分けられた頭髪は、額に被さった所でも 頭の上でも、長くて美しい波状の形になっている。この頭髪は背後では、縦横双方に走った線で 境目をはっきり付けられた ふさふさした幅広の塊まりの形になって、肩胛骨の所まで垂れ下がり、細くて長いバンドで 一緒に結び合わされている。後頭部ではこの頭バンドが 実に風雅に結ばれていて、その結び目とそこから分岐した 2 つの同じような両先端とが、柔らかい塊まりになったこの頭髪の上に 装飾のようにくっ付いている。

○ この人物像の中では 実物を求める感覚が表現されていて、アクロポリスの丘の上で出土した同時代の他の作品の型とは これは非常に際立って異なっている。アッテイカ地方の彫刻家の作品で 制作時期が 20 年許り古くて 今はベルリンにある女神立像(図版 20 から 23 まで)を 本書に示された図版の中から持って来て、比較して見ても良い。迫力は素朴で、激しい活力に充ち溢れており、ベルリンにあるこの女神の像が持っている きちんとしていて 張り詰めている形態を破って 飛び出しているように見える。アクロポリスの丘で出土したこのコレ-像を作った工匠は、他方では その造型が一段と穏やかであり 柔和でもある。弯曲した平面や 流れるような線を好んで使用しており、その美の理想は、一段と感覚的で デリケ-トに調和が採れたものであって、生育している生き物の自然な生活に似通っている。東方地域の持つ沈着と聡明さとも亦、このコレ-の瞑想的な顔の中に 随分と入り込んで来ているようにも見える。

○ 東方からアテネに持ち込まれたものであろうと、或るいは 実際にアテネで彫刻されたものであろうと、何れにしても このコレ-像を作った工匠が サモス島出身であったに相違ないことは、ずっと以前から知られていた。ル-ブル美術館にあるケラミュエス Cheramyes のヘラ女神像(図版 32 と 33)は、その持っている 特有の完璧さということで この像がアクロポリスの丘の上の奉献の供え物であったという事実を凌駕する 重要さを持つ傑作であるが、この図版の女性像も そのほんの数年前に作られたに過ぎない筈のものである。

○ 左の肘、左腕の上膊部と前膊との中間の部分、それにこの人物像の左側に垂れている 頭髪の幾つかの部分は、最近になって修復されている。頚部にあった割れ目は 補修で埋められてしまっている。

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