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の小像(図版 228 から 231 まで)とか、イリッサス川 Ilissus(訳注 145)の墓碑(図版 226)の上の画像に見られる 狩人の傍らで蹲(うず)くまって泣いている少年の像とかは、子供っぽい形態を採っており、子供らしいやり方で まことの子供として描かれているのである。更には 母と娘、父と息子、夫と妻との間の関連とか 様々な年齢の男の間の関連までもが、よりはっきりと区分が付けられている。本書の中に収録されている アッテイカ地方のシリ-ズになった墓の浮き彫りから このことを看取るのは、比較的容易(たやす)いことである。概して言えば B.C.4 世紀のこのコ-スの中にあって、表情とか ポ-ズとか ジェスチュアとかを通して 心の状態を描写するというやり方が重要性を獲ち得ており、その重要性が更にだんだんと大きくなって来ている。古い伝承では こういった傾向の先駆者は プラクシテレスであったとされており、現存している彼の作品許りではなく、彼の影響を受けて作られた彫刻を見ても、このことが確かにその通りであると確認出来るのである。人間の姿の差別化がこうして進行するのと並行して、個々の人物描写の扱い方も亦 或る一つの変化を受けた。それは パルテノン時代のクラシカル期酣(たけな)わの頃には 未だ根付いた許りであり、B.C.4 世紀初期になって見られるようになった 幾分超個人的に外見上の容貌を再現するというやり方から、同じ B.C. 4 世紀の末期における より個人的な - より写実的と言える所まで行けるのかも知れないけれども - コンセプトを持った人物描写になったという変化である。本書に収録された像の中では キュレネ Cyrene(訳注 146)で出土したブロンズ製のアフリカ人の頭部像(図版 210)とか、<マウソラス王>の壮麗な彫像(図版 211 から 213 まで)とか、オリムピアで出土した拳闘士の像(図版 238 と 239)とかが、この年代に作られたギリシャ彫刻品の例として重要なものであり、同時に又 その典型となるものである。

 芸術を創り出している様々な地域の間には スタイルの上での相違が幾つもあって、B.C.5 世紀末まで遡ると その相違が突き止められるものも その中にはあるかも知れないが、B.C.4 世紀の間中は 突き止められるものが、余り多くなくなっている。ギリシャ本土では アッテイカ地方とペロポネソス半島北東部の 2 つの地域が彫刻の分野で そのリ-ダ-シップを執ったのであって、この分野では クラシカル期の形態がその発展の極致に達していたのである。ポリュクリタスはフイデイアスよりは どちらかと言えば多分年下であったのであろうが、彼の作った流派に属する数人の作者の名前と その作った幾つかの芸術作品とが、文献を通して今日に残って来ている。アンテイシュテラ島 Anticythera(訳注 147)で出土したブロンズ製の若者像(図版 218 から 220 まで)であるとか、エフエソスのアルテミス女神の新しい方の神殿にあった 円柱の土台石に付いていた浮き彫り(図版 223)といった作品の中には、B.C.4 世紀の後半の 50 年間中に、ポリュクリタスの採ったこの流儀を それでも未だ看取ることが出来るのである。リュシッポスはシキュオン Sicyon(訳注 148)の町の金属鋳造で一番有名な巨匠であったが、極端に多作のその制作生活は 60 年以上にも及び、B.C.4 世紀の末近くまで続いていたに相違なかった。アテネにあって 同じような重要性と影響力を持っていた彫刻家は、主として大理石で作品を作ったプラクシテレスと アレキサンダ-大王の治世期間中リュシッポスと共同で制作をしたレオカレス Leochales(訳注 149)の二人であった。B.C.4 世紀に建造された 一番大きい記念碑の内の一つが、公衆の名で作るよう依頼されたものではなくて 統治していた一人の人物の命令によって 建てられたものであるということは、この年代を象徴する事柄なのである。この記念碑というのは ハリカルナソス Halicarnassus(訳注 150)にあったマウソラス王の 途徹もなく大きい墓であって、スコパス Scopas(訳注 151)とか テイモテオス Timotheus(訳注 152)とか ブリュアクシス Bryaxis(訳注 153)とか レオカレスといった その当時ギリシャで最も賞讃されていた彫刻家の内の 4 人が、その墓の上に彫刻の装飾(図版 214 から 217 まで)を作るべく 小アジア地方からこの王様の邸宅に招き集められたのであった。
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