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 グレコ・ロ-マン Greco - Roman(訳注 191)の世界が、政治的無秩序からの救済者として アウグストス帝その人を授けた時代が、ラオコ-ンのグル-プ像の直ぐ後に続いたのであって、クラシカル期として既に認知されていたし、当代の彫刻家たちが自分自身のスタイルをその型に合わせて作ったり、本当にコピ-したりしている B.C.5 世紀と 4 世紀とに作られた諸作品の方に この年代が益々向きを変えているのである。
デルフイの美術館所蔵のキニク派 Cynic(訳注 192)の人の彫像(図版 245)とか アンテイシュテラ島沖の海中で出土した哲人の素晴らしい肖像(図版 250 及びⅩ)に始まって、ペルガモンから出土したアレキサンダ-大王の頭部像(図版 261 と 262)とか、ロ-マのテルメ美術館に収蔵されている統治者の像(図版 264 と 265)とか、コス島で出土した マントを纏った人の彫像(図版 266 と 267)とかを経て、デロス島 Delos(訳注 193)で出土したブロンズ製の頭部像(図版 274 及びⅩⅠ)に到る印象的な頭部像や彫像がシリ-ズになって作られていて、一人一人の人物との間の関係がだんだんと強くなって行く中で ヘレニステイック期の肖像彫刻が成し遂げた功績は一体何であったのかということを、このシリ-ズになった多くの像が明らかに示している。人物の持つ霊的な特色とか 心理的な特色とか 肉体的な特色といったものを一体にして、その題材を全般的に描写することで その人物の真髄を明らかにするのが、クラシカル期の肖像彫刻であったのに対して、ヘレニステイック期においては その内面的な本質と外面的な外見とが持っている ユニ-クな特色を通して、題材の性格をもっとはっきりと特定して 提示しているのである。近代的な観客という立場に立って見るとするならば、ヘレニステイック期の肖像彫刻こそが、ギリシャの肖像画法の頂点であると見做して良いのかも知れない。併しながらギリシャ人の男性は、その宗教的付着物とか 政治的付着物とか 更には社会的な付着物とかからだんだんと解放されて、遂には孤立した立場とか 孤独の状態の中に自分自身がいるのを見出すに到ろという 精神的な大きい変化を遂げており、この肖像彫刻の発展過程が ギリシャ男性の精神的変化の推移を 特別にはっきりと反映させているのは、本当のことなのである。

 デルフイにあるキニク派の人の彫像とか B.C.3 世紀の後半の 50 年間に作られた マントを纏った人の彫像の一部の遺物である アンテイシュテラ島の沖合で出土した ブロンズ製の有髯の頭部像(図版 250 及びⅩ)とかでは、一人一人の目鼻立ちが一つのタイプとして ギリシャの哲学者の似顔に未だに結び合わされているのに反して、更にはこれらの頭部像は 限界をはっきりと明示されたシステムに従って 未だにデザインされており、その彫刻としての形態も 手堅さとか精神集中とかを 未だに持ち続けているのに反して、ヘレニステイック期後期に作られた デロス島で出土したブロンズ製の頭部像(図版 274 及びⅩⅠ)では、あらゆる点でその特徴となっていたものが、全体の雰囲気として だんだんと薄れて行っているのである。前掲の有髯の男性の像に見られる凝視が 真面目でしかも内面を見詰めたものであるのと比較すると、この像の顔の与えている印象は 絶え間なく問いかけていて しかも実現することのない疑いであって、彼の眼は 果てしなく探し求めて辺りを見回しているのである。そのモデリングは 動揺していて不安定であり、その外観も活力の効果が達成されるよう試みていて、落ち着きがない。

 最後にカリア Caria(訳注 194)のトラレス Tralles(訳注 195)で出土した少年の像(図版 280 と 281)とか アルメニア Armenia(訳注 196)のサタラ Satala(訳注 197)で出土したアフロデイテ女神の美しい頭部像(図版 282)とかが選ばれているが、これはヘレニステイック期の後期か或るいは ロ-マ帝国時代の初期においては ギリシャの典型的な彫刻と相矛盾する可能性が見られるという考えを示すためのものである。概して言うならば、ラオコ-ンの像とか 少年の像とか ブロンズで出来たアフロデイテ女神のこの頭部像といった像の持っている この身悶えするような激しい特徴は、そのデザインやモデリングの持っている 古典主義的な簡明さとか 厳しさとかと相俟って、ギリシャ彫刻の最後に当たるこの時期の特徴となっている 強烈な不統一というものを、典型的に示すものとなっているのである。

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