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 彫刻群は、同時代の比較的偏見の少ない人々からは 美しくて 且つ意義深いものという評価を受けているのであるが、この彫刻群に与えている彼の注釈は 全くその逆のものであって、ギリシャ人が造型美術について持つ 理想的なものという概念が固定してしまっていたこととか、彼の年齢にあり勝ちな 古風な嗜好といったことのせいであるということで、初めてこのことが理解出来るのである。B.C.6 世紀の後期から 5 世紀の初期にかけて作られた 大理石のこれらの彫刻群(図版 72 から 77 まで 及び 82 から 87 まで)は 1811 年にエギナ島で出土したもので、著述や絵画を通じて やがてゲ-テの知る処となっている。その様式化された不自然な形態を ゲ-テは幼稚であると考えた。それらはとんでもなく醜いものと ゲ-テには見えたに違いない。何れにしても<エギナ島にある彫刻群からは 殆ど些かの娯(たの)しみも齎らされることはなかった。>と  1818 年に彼が書き著した時点で、これらの彫刻群がゲ-テに気に入られるということは 余りなかったのである。これらの彫刻群は<余り注意を払わないで 急いで作り上げられた神殿の彫刻で、芸術的な評価を下すには 余りにも完全に遠くかけ離れてしまったものであり、(凭れ掛かった人物像は 恐らく後年になって加えられたものであろう。)その芸術的評価は いつもおぼつかないままで残るに相違ない。古代の人々が自分のコ-トを作るのに、どれもこれも すべて同じ布を裁断して作っていたとは信じないことにしよう。>というようなことになってしまうのである。

  19 世紀後半の 50 年間には ギリシャや小アジア地方で数多くの発掘が行われ、オリムピアやデルフイ Delphi(訳注 50)からも アテネのアクロポリスの丘からも そしてギリシャの島々からも、夥(おびただ)しい数の初期のギリシャ彫刻の出土品が日の目を見ることとなり、科学的な審査を受けるべく差し出されたのであったが、その頃まではより広いサ-クルの中では ア-ケイック期の美術に対する態度に 変化が全く見られていなかった。初期ギリシャの彫刻を 史実として理解することに歩調をあわせて、その美学的な評価がだんだんと高まってゆき、更にはウイ-ンの美術史家アロイス・リ-グル Alois Riegl(訳注 51)は <芸術的意欲 Kunst- wollen>という自らのコンセプトを使って その進行を助成しているのである。ア-ケイック期の芸術が 初期ギリシャの精神を純粋に表明するものであったことを発見し、途切れることのない活力と若々しい生命力との典型となるものであるとして 芸術的に高い評価を下したのは、 20 世紀に入ってからのことであった。こうした発見というものは、その時代の心霊的な状況全般であるとか、科学の分野における新しい進展であるとか、更には自然主義も又全てのクラシシズムも どちらも意識的に受け入れないで放棄し 自らを初期ギリシャ芸術の正道に似通っていると感じている 造形美術の狙いといったものを、切り離して考えることは出来ない。リルケが 1903 年から 1908 年にかけて著した<新思考 Neue Gedichte>の中で アポロ神 Apollo(訳注 52)に捧げている短詩は、ア-ケイック期の彫刻に対して その当時支配的であった姿勢というものを示す 典型的なものであったと見ることが出来よう。

 ア-ケイック期の諸作品とは全く異なって それより後の時期に作られた彫刻品の中には、それらの作品に対して嘗ては広く受け入れられていた重要性と比較すると 現代の評価がだんだんと下がって来ているものも、幾つかある。その良い例は ラオコ-ン Laocoon (訳注 53)の群像(図版 278 と 279)であって、レッシングとか 18 世紀から丁度 19 世紀にかけての頃の芸術理論とかから見れば、この彫刻家の持つ芸術の最高の手段を用いて 受難の苦悩がその正に<実りの多い瞬間>において捉らえられた この上なく素晴らしい表現であると見做されていた。この群像の中に着想と迫真性とを溶け込ませた 作者たちの手法に対する限りない賞賛が、そこに感じられたのである。ずっと遥かに範囲の広い 多くの数の記念像があったおかげで、ヘレニステイック期芸術の進展過程については 私たちは昔の世代の人々よりもずっとより正しい知識を持っており、従って又、B.C.1 世紀の美術史の中の そのあるべき位置を決めて、このラオコ-ンの群像を据え付けることが出来るという今日となってみると、- この群像の一つの特色である華麗さは 全く素晴らしいものであるとしても、 - 私たちの気に入っている主なものは、その構成の中に特にはっきりと見受けられている古風な性向と結び付けられて、その形態の中に 甚だしい技巧と誇張とが見られるという印象があることに因るものなのである。

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