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 色彩というものは、ギリシャの彫刻品の表面の単なる装飾に過ぎず、これを省いたとしても 大した重要性は無かったなどと考えてはならない。全くの正反対なのであって、ギリシャ彫刻にあっては、着色は 形態と並んで重要な役割を果たしており、この二つは、作者にとって 正に切り離すことの出来ない要素であると見做されていた。従って、彫刻のスタイルに変化が現われたときは、着色の企画の中でも これに符合する変化が必ず惹き起こされている。初期のギリシャの作品は、赤、青、緑、黒、黄といった 主に強い色彩で着色されていた。これらの色彩は、互いに隣り合わせに補色を置くことで得られる対照効果を狙った はっきりとした好みによって使用されていた。もう一つの独特な特色は 時としてリアリズムを全く無視していることであって、アクロポリスの丘 Acropolis(訳注 24)で出土した 三つの頭を持った怪物の像(図版 26 とⅠ及びⅡ)の髯と髪に見られる青色は、その良い例証である。濃くて鮮明な色合いが、B.C.5 世紀の特色である。ピンクとか スカイ・ブル-とか 紫とかの様に より明るくてより上品な色彩は、彫刻スタイルの より地味でより絵画的な特徴と良く調和しているが、B.C.4 世紀の半ば以降になって こんな色彩が使用され始めた。

 今日、地中海の明かるい日光の当たる そのもともと置かれてあった野天の場所に クラシカル期の彫刻品が置かれてあるのを眺める機会は、殆ど無い。私たちが見ている主なものは、西欧諸国全体に散らばってしまった破片であり、それらのものは、公共とか 私有とかのコレクションの最も価値のある宝物と見做されて、室内に展示されている。数あまたの貴重なギリシャの彫刻品が、破壊されたり 完全に無くなってしまったりした理由が数多くある中で、主要なものだけを挙げることとしたい。戦争行為が真っ先に来るのは当然のことながら、重要性で戦争に次ぐのが 後の世代の人々の芸術感覚の欠如であって、表面に彫刻が付いているのを全く無視してしまって、彫像とか 浮き彫りとかを屡々 建物の通常の建材として使用してしまったのであった。同じ様な悲しむべき理由として挙げられるのは、彫刻された大理石が 屡々窯に放り込まれてしまったことであって、病気となってそこから脱け出すものとされ、これは 当初は古代の後期に始められ、極く最近に到るまで残っていた風習の一つなのであった。ブロンズは、その金属としての価値の故に溶融されてしまった。B.C.3 世紀以降になると、ロ-マ人たちは 南イタリ-、シシリ-島 Sicily(訳注 25)、ギリシャ、及び小アジア地方を征服して得られた戦利品の一つとして、無数のクラシカル期の彫像を運び去った。彼等は、征服した都市から許りではなくて、神域や墓地からも 好きなものを運び去ったのである。故郷に持ち帰ったこれらの彫刻品は、当初は その本当の価値通りに珍重し、神殿とか 公共の場所とか 個人の庭園とか 別荘とかに この彫刻品を据えていたが、紀元後幾世紀も経ぬうちに、これらの作品の大部分が亡くなってしまった。初期のキリスト教徒の手で破壊されたり、移住時代の間に 毀わされてしまったりしたものが多かった。ギリシャでは 地震が幾度もあって、記念碑の彫刻物のある真っ只中での大破壊が惹き起こされている。A D 5 世紀に起こった地震は その最悪のもので、オリムピア Olympia(訳注 26)にあったゼウス神 Zeus(訳注 27)の神殿が その時に、その彫像や浮き彫りの総べてともろともに 毀われ去ってしまったのである。

 

 歴史の各時代を 一つづつ区分して明示するために、普通 一番良く用いられている比喩としては、人間の年齢から来ているものがある。そこで ギリシャ彫刻の発展を記述するに当たっても、その生誕・幼少期・青年期・成熟期、そして最後にはその老年期という区分を用いるのが、慣例となった。植物が成育し、やがて枯れ朽ちるという表現を採った 全く同じような細別法、つまり萌芽から成育・開化・結実・質の退化を経て、最後には枯朽に到るという細別も、同様に良く使われていたのかも知れない。この様な類別を使用するに当たっては、それが歴史のコンスタントな流れとか、変化に富んだ流れとかを記述するのに役立ち得るものであるからこそ、その限度の中で使用されるものであるという制約のあることを 知らなければならないのは、言うまでもないことである。異なった幾つかの時代を 比較観察するに当たって、混同を少なくするのに役立たせるという目的だけに 限定するのであれば、その有用性は もっと筋道の通った 本物のものとなるのである。

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